当院では生活指導やくすりの治療では効果が不十分な「難治性過活動膀胱」の患者さんにボトックス®(ボツリヌス毒素)膀胱壁内注入療法を行っています。

難治性過活動膀胱とは?

過活動膀胱とは「尿意切迫感を必須条件」とした頻尿や夜間頻尿、切迫性尿失禁などの症状がある病気です。
(詳しくは「過活動膀胱について」を参照)
治療は通常、行動療法とベタニス®やベオーバ®などのβ作動薬もしくはベシケア®、トビエース®、ウリトス®などの抗コリン薬の単独ないしは併用療法を行います。

しかしそのような治療を少なくとも12週間継続しても治療効果がでず、切迫性尿失禁などで困る場合があります。

このような場合を「難治性過活動膀胱」と定義します。

(過活動膀胱診療ガイドライン 第2版より)

難治性過活動膀胱に対する新しい治療のボトックス®

2020年4月から日本国内でも「難治性過活動膀胱」に対する

ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法(ボトックス®膀胱壁内注入療法)

が新しく保険診療でできるようになりました。
当院では院長が講習と実技セミナーを受講し実施資格を得て2020年6月から開始しています。

ボトックス®膀胱壁内注入療法とは?

ひとことで言うと、
内視鏡(膀胱鏡)を使ってボトックス®という注射液を膀胱の表面に注射する治療です。

当院では、膀胱の中に痛み止めの麻酔液を入れたあとに、尿道から膀胱鏡をいれて膀胱の表面に専用の針を刺して膀胱内にボトックスを注射します。
所要時間は通常10分から15分程度(麻酔などの準備時間を除く)です。過活動膀胱の患者さんには通常20カ所注射します。
当院では安全のために現在のところ原則1泊入院で行っていますが、患者さんの状態などで日帰りで行う場合もあります。

要点をまとめると
1)治療の対象者は「難治性の過活動膀胱」の患者さんと「神経因性膀胱」の患者さん。

(当院では現在のところ「難治性過活動膀胱」の患者さんに実施)
2)「日帰り内視鏡手術」も可能。
(当院では現在のところ男性は原則1泊入院、女性患者さんでも必要があれば1泊入院で実施中)
3)保険診療で実施できます。
(2割負担の患者さんでだいたい2~3万円、3割負担で5~6万円ぐらいの自己負担になります)
4)治療効果は約80%の患者さんで有効で、排尿回数が12~53%、尿失禁回数が35~85%減少したという報告1)があります。
5)主な副作用は残尿の増加、尿閉(おしっこが出なくなる)、膀胱炎などの尿路感染症、血尿があります。
  効果が強く出すぎると、しばらく尿が出なくなることが報告されているため治療を受ける患者さんは
  いざというときには自己導尿などができることやその必要性があることを理解して頂く必要があります。
参考文献) 1)Leong RK, et al.: Urol Int 84: 245-253, 2010.

ボトックスの術中

ボトックス®は現在までに90か国以上の国や地域で過活動膀胱・神経因性膀胱の患者さんへ使用されています。
過活動膀胱の行動療法、各種薬物療法を少なくとも12週間以上継続しても効果が得られない患者さん、あるいは継続が困難と医師が判断した患者さんが治療の対象になります。
効果持続期間は4~8か月程度と報告されているので、効果が無くなってきたら治療してから4か月以降であれば追加治療ができます。
尿路感染症にかかっている患者さんや
残尿が多いのに導尿を受けていない患者さん、
全身性の筋力低下を起こす病気(重症筋無力症、ランバート・イートン症候群、筋委縮性側索硬化症など)がある患者さん、
この治療で発疹などのアレルギーが出ることが分かっている患者さん

などには治療をすることができません。

当院での治療について

当院では、現在のところ「難治性過活動膀胱」の患者さんにボトックスによる治療を行っています。
適切な治療を行えば、非常に良い治療だと思われます。
我々がもっとも重視しているのは、

ボトックスの治療がふさわしい患者さんを見極めて適切に治療すること

です。

つまり、
診断は「過活動膀胱」で間違いはないか?
ボトックス以外の通常の薬物療法は本当に効果が無かったのか?
ボトックスの副作用が出た場合の対処ができる患者さんなのか?

などを専門的に評価して治療計画を立てるようにしています。

したがって治療前の検査もしっかり行ってボトックスによる治療がふさわしいか十分に検討しています。
必要がある患者さんには治療前に膀胱機能検査(尿流動態検査:ウロダイナミックスタディー)まで実施しています。

現在のところ治療はすべて当院院長が担当しています。
治療をご希望の方は事前に主治医によく相談してください。

文責:院長 南里正晴(2020年8月17日初版)