おしっこがたまると膀胱が痛くなる。
とにかくトイレがちかい。
おしっこをしてもすっきりしない。
膀胱炎だと思って病院に行って抗生物質を飲んだけど良くならない。
「過活動膀胱」と言われて出された薬を飲んでも良くならない。
尿を調べても異常はないと言われる。
病院を替えても同じことの繰り返し・・・。

「心因性の頻尿」で気のせいだと言われた・・・。

このような症状が続く場合は「間質性膀胱炎・膀胱痛症候群」かもしれません。

間質性膀胱炎・膀胱痛症候群(Interstital cystitis/Bladder Pain Syndrome: IC/BPS)とは?

今でこそ泌尿器科医の間では広く知られるようになった病気ですが、まだ知らない医師は多いかもしれません。
原因は不明で正確な病態もまだ分かっていません。
女性に多い病気で、男女比は1:5ぐらいだと言われています。
診断が難しいため、「過活膀胱」や「慢性膀胱炎」、「心因性頻尿」、男性であれば「慢性前立腺炎」と診断されてしまうことがあります。

「間質性膀胱炎 (Interstitial cystitis: IC) 」という用語には国際的に合意された定義がありません。

同じ病態の患者さんなのに日本を含むアジア、米国、欧州で名称が若干異なるため、日本では2019年4月に発刊されたガイドラインから病気の総称を間質性膀胱炎・膀胱痛症候群 (IC/BPS) と決め、膀胱の中の様子(膀胱内視鏡検査所見)で「間質性膀胱炎(ハンナ型)」(HICと略します)と「膀胱痛症候群」(BPSと略します)に分けて治療方法を考えていこうという方針になってきました。
そして「間質性膀胱炎(ハンナ型)」の一部(重症型)は国が認定する指定難病になっています。

間質性膀胱炎・膀胱痛症候群 (IC/BPS) の症状と診断は?

もっとも特徴的な症状は膀胱に尿が貯まった時の痛みです。またほとんどの患者さんに頻尿の症状があります。
1日に20回も30回もおしっこのためにトイレに行く患者さんもいます。
日本のガイドライン(2019年版)ではIC/BPSの症状を「膀胱に関連する慢性の骨盤部の疼痛、圧迫感または不快感」「尿意亢進や頻尿などの下部尿路症状」という言葉で表現しています。

大切なのは, 「同じような症状の他の病気ではない」ことが確認できている、ということです。
つまり細菌性膀胱炎(普通の膀胱炎のこと)や膀胱結核などの感染症や膀胱癌、膀胱結石や過活動膀胱、あるいは婦人科の病気ではないことを確認してはじめてIC/BPSらしいと診断できるのです。

そしてIC/BPSらしいと判断されたら膀胱鏡検査を行います。
膀胱鏡検査とは尿道から内視鏡(カメラ)を挿入し膀胱の中を確認する検査です。

この検査で膀胱の中に後述する「ハンナ病変」という病変があれば「間質性膀胱炎(ハンナ型): HICと略します」と診断し、それ以外のを「膀胱痛症候群: BPSと略します」と診断します。

つまり膀胱鏡ができる泌尿器科の病院やクリニックでなければ正確な診断ができないのです。

IC/BPSの診断が難しい理由は?

ここは私見です。
症状は普通の膀胱炎(細菌性膀胱炎)のひどい状態によく似ていますが、尿検査でほとんど異常がありません。
また多くの患者さんが頻尿の症状があるのでメジャーな疾患である「過活動膀胱」と診断されやすいのだと思います。
直接の比較にはなりませんが、参考として40歳以上の日本人男女で「過活動膀胱」の症状がある人の割合は12.4%だったのに対して、「膀胱痛」の症状がある人の割合は1.0%程度だったと報告されています。この「膀胱痛」の症状があった人のなかに「IC/BPS」の患者さんが含まれていると考えられます。その意味では「IC/BPS」は患者さんも医師もすぐに頭に浮かぶ病気ではないと思います。
だから、抗菌薬(抗生物質)や頻尿治療薬(過活動膀胱治療薬)などで症状が改善しない場合に「この病気かもしれない」と疑わなければIC/BPSの診断に行きつくことは難しいと考えています。
そして「IC/BPS」が疑われたときには「膀胱鏡検査」(尿道から細い管状のカメラを入れて膀胱内を観察する検査)が正確な診断のために重要になります。基本的に「膀胱鏡検査」は泌尿器科医しかできません。だから泌尿器科のクリニックや病院でしか診断ができないことも診断までに時間がかか
ったり診断が難しい理由かもしれません。

膀胱鏡検査で何が分かる?

膀胱鏡検査の意義でもっとも大切なことは膀胱内に「ハンナ病変」があるかということです。
「IC/BPS」の症状がある患者さんで膀胱内を観察したときに、「ハンナ病変」という名前の「細い血管がもつれた糸のように見える赤い網目状の病変」があれば「間質性膀胱炎(ハンナ型)」と診断します。一方で「ハンナ病変」が見つからなければ「膀胱痛症候群」と診断します。
一般的に「間質性膀胱炎(ハンナ型)」のほうが痛みなどの症状が強い人が多いと言われています。
同じような症状でも「ハンナ病変」があるタイプと無いタイプでは病態や病理が全く異なり、治療方法もそのことを念頭に入れるべきだと考えられるようになってきました。

ここからは私見です。
外来での膀胱鏡検査で「ハンナ病変」を正しく診断することはときに難しい場合があります。
小さな「ハンナ病変」を見落としたり、「ハンナ病変」と診断した病変が「膀胱がん」だったこともあります。
症状や経過、各種検査を総合して判断することが大切だと思います。
「膀胱鏡検査は怖い」と言われる患者さんがときどきいますが、正しい診断や治療方針決定にはどうしても必要な検査だと考えています。
主治医の先生から検査の目的と意義の説明を良く聞いて検査を受けてください。

IC/BPSの治療は?

これだけ医学が進歩しているのに、現在のところ「IC/BPS」を根本的に治してしまう治療方法はありません。
日本の保険制度で認められている治療方法は「膀胱水圧拡張術」という外科的治療だけです。
飲み薬や注射などの特効薬はありません。
そこで現在では、患者さんの症状に応じてできる治療を組み合わせながら行っているのが実情です。
「IC/BPS」の治療は大きく分けると、
① 保存的治療(食事療法や生活指導など手術や薬以外の治療方法)
② 薬物療法
③ 膀胱内注入療法
④ 手術療法(膀胱水圧拡張術、およびハンナ病変凝固・切除術)
⑤ その他 
になります。

ここからは私見です。
「IC/BPS」はハンナ病変の有無で治療方針を考えていくことが重要だと言われるようになってきました。
ただし「保存的治療」に関してはすべての「IC/BPS」の患者さんにまず最初に始める治療だと考えられています。
このことは日本だけでなく各国のガイドラインで強調されています。
実際に生活指導、とくに食事療法の有効性を示す論文報告はたくさん存在します。
個人的には治療において重要な位置を占めると思います。

食事療法については、情報が溢れています。
有名なのは柑橘類やコーヒー、アルコールなどが症状の悪化に関係すると言われています。
しかし理由について言及されていることは少ないと思います。
ある論文では、
①飲食物の成分が膀胱の壁から侵入し刺激を起こす説、
② 食べ物が腸を刺激することが膀胱に関連する神経を刺激して症状を惹起する説。(クロストーク説)
③ 特定の食べ物が神経を刺激して症状を惹起する説。
が紹介されています。
Friedlander JI. BJU Int. 2012 JUn; 109(11): 1584-91

薬物療法は特効薬や専用のものが無いので、患者さんの症状やそこから予測される病態などを考え、使用可能な薬を選択します。
どの薬が効果的かについては定まったものがないので、それぞれの患者さんの状態に応じて、主治医の考えや経験による判断になると思います。

膀胱内注入療法も同様に現時点では日本で認められた薬はありません。
ジメチルスルホキシド(DMSO) の治験が日本で進められていて、近い将来には全国の医療機関で使用できることが期待されています。
(海外では以前から使用されている薬品なので、日本でも一部の医療機関では各施設の倫理委員会での審議を経て使用されています)

手術療法では唯一保険で認められた「膀胱水圧拡張術」があります。
この手術についても海外では否定的な意見もありますが、少なくとも間質性膀胱炎(ハンナ型)に対して病変部を凝固・切除する方法を併用した場合の治療効果は大きいと考えています。

まとめとメッセージ

間質性膀胱炎・膀胱痛症候群にはまだ分かっていないことも多く、根本的な治療薬がありません。
診断も難しい場合があり、辛い思いをしている患者さんも多くいます。
頻尿や膀胱の痛み、不快感がどうしても治らない患者さんは、「間質性膀胱炎の可能性はありませんか?」と担当医に尋ねてみてもいいかもしれません。間質性膀胱炎を疑った泌尿器科医にしかこの病気を正確に診断することができないからです。

残念ながら現在、特効薬はありませんが、最近になっていろいろなことが分かってきました。
だから間質性膀胱炎・膀胱痛症候群と診断されている患者さんは、担当医とよく相談しながら治療を続けていくことが大切だと思っています。

2020年4月25日(初版) 文責 南里泌尿器科医院 院長 南里正晴