テレビや雑誌・新聞などで良く見聞きする「過活動膀胱」
よく誤解されているのですが、「頻尿だったらすべて過活動膀胱」ではありません。
薬で良くなる病気なの? 食事や日常生活では何に注意したらいいの? 薬を飲んでるのに良くならないのはどうして?
診察室ではいろいろなことを尋ねられます。
過活動膀胱の「なぜ」を私の視点でまとめてみました。


メッセージは2つです。
1.歳のせいだとあきらめる必要はありません。お薬以外にもいろいろな治療方法があります。
2.(泌尿器科以外の)かかりつけ医で治療を受けていいのですが、3か月たっても改善しない場合は泌尿器科専門医に診てもらいましょう。

定義 ー 過活動膀胱ってなに?

「過活動膀胱」にはきちんとした定義があります。
それは「尿意切迫感を必須とした症状症候群であり、通常は頻尿と夜間頻尿を伴い、切迫性尿失禁は必須ではない。
またその診断のためには局所的な病態を除外する必要がある」

これを解説すると以下のようになります。

まず最も大切なことは、過活動膀胱と診断するためには「尿意切迫感」という症状がなくてはダメだということです。
「尿意切迫感」とは「突然起こる、我慢できないような強い尿意であり通常の尿意との相違が困難なもの」と定義されいています。

簡単にいうと、「急におしっこがしたくなって、我慢すると漏れそうだからあわててトイレに行かなくてはならないような症状」のことです。
よく患者さんから言われる歯磨きや水を触ったら突然おしっこがしたくなって漏れそうになるという症状も「尿意切迫感」です。

「尿意切迫感」が無かったら、いくらトイレが近くても(頻尿でも)、尿失禁がひどくても「過活動膀胱」ではありません。

そして次に大切なことが「その診断のためには局所的な病態を除外する必要がある」の一文だと思っています。
これは何かというと「膀胱がんや前立腺がんなどの悪性腫瘍や尿路結石、細菌性膀胱炎や前立腺炎、間質性膀胱炎などの炎症性疾患、子宮内膜症など膀胱周囲の異常、多尿(水の飲みすぎ)、薬の副作用など他の病気はありませんよ、ということを確認しているということです。

あとは「過活動膀胱」が「症候群」である、という言葉も深い意味があると思っています。
症候群とは、「いろいろな症状の組み合わせだが、それだけでは正確な診断にはならない」
「正確な原因が特定されていない機能異常」で、前述の「局所的な病態が除外されている」
もののことです。
これを私のことばで説明します。
例えばAさんとBさんとCさんは3人とも「尿意切迫感」の症状と頻尿、尿失禁があります。この症状の原因となるほかの病気は無さそうでした。
この3人は全員「過活動膀胱」と診断してよさそうです。だけどもAさんとBさんとCさんの「過活動膀胱」の原因はそれぞれ違うかもしれません。
原因が異なっても全員「過活動膀胱」なのです。

原因 ― なぜ過活動膀胱になるの?

過活動膀胱発症メカニズムについては、まだ完全には分かっていません。
ただ、明らかな排尿に関連する神経の異常が原因となっている神経因性の過活動膀胱とそれ以外の非神経因性の過活動膀胱の2つに大別されます。
実際は原因がはっきりしない過活動膀胱がほとんどです。
現在考えられている原因には、①加齢、②下部尿路閉塞(前立腺肥大症など)、③骨盤臓器脱、④女性ホルモンの欠乏などです。
特に注目されているのが膀胱の血流障害で、いろいろな研究結果が発表されています。
動脈硬化や前立腺肥大によって膀胱に流れる血流が減少することが過活動膀胱の原因となっている、という説があります。
そういった意味でも①の加齢とともに過活動膀胱の症状が出てくることも納得できますね。
また男性では前立腺肥大症が原因となり女性では骨盤臓器脱や女性ホルモンの欠乏が原因となるというように男女にそれぞれ特有の原因があることも興味深いと思います。

診断 ― 症状だけで診断していいの?

「過活動膀胱」は「尿意切迫感が必須」なので自覚症状で診断が決まる病気ですが、「ほかの病気がないこと」を確認することもとても重要とされています。とくに、もともと残尿が多い人が過活動膀胱の治療薬(膀胱を緩めて尿意切迫感や頻尿を抑える薬:後述)を内服してしまうと症状が逆に悪化してしまうことがあります。だから診断のためには「残尿測定」が必ず必要です。

ここからは私見を交えて解説します。
「おしっこが近くて、我慢すると漏れそうになる」という症状があればそれは「過活動膀胱」かもしれません。
最寄りの泌尿器科クリニックへ行くことが最適な選択だと思います。
しかし、「泌尿器科まで行くのはちょっと・・・」という方はかかりつけの先生にまず相談してみてください。
①問診で症状を確認してもらい、②尿検査で明らかな異常がないことを調べてもらって、③残尿がないことを確認してもらい、④かかりつけの医師の目でみて他に怪しい病気が無いと判断されたら「過活動膀胱」と診断してもらって治療を受けていいと考えています。(私の個人的な意見です)
過活動膀胱の治療薬の処方を受けて、3か月経っても症状が改善しなければ泌尿器科専門医を紹介してもらうべきだと考えています。
なぜなら「過活動膀胱以外の病気」かもしれないからです。

治療 ― 薬物療法が主体となります。

過活動膀胱の治療の中心はくすりによる治療(薬物療法)です。
他には行動療法(生活指導、膀胱訓練、理学療法としての骨盤底筋訓練やバイオフィードバック訓練など)や手術療法(前立腺肥大症に伴う過活動膀胱には前立腺肥大症の手術、女性の混合性尿失禁に対する中部尿道スリング手術など)があります。

薬物療法の代表は抗コリン薬とβ3アドレナリン受容体作動薬です。
抗コリン薬には内服薬のプロピベリン(商品名:バップフォー)やソリフェナシン(商品名:ベシケア)、イミダフェナシン(商品名:ウリトス・ステーブラ)、フェソテロジン(商品名:トビエース)があります。
また貼付剤のオキシブチニン経皮吸収型製剤(商品名:ネオキシテープ)があります。
種類が豊富なのが抗コリン薬ですが、最近ではβ3アドレナリン受容体作動薬が第1選択薬として使用されることが増えています。
β3アドレナリン受容体作動薬は2種類発売されています。
ミラベグロン(商品名:ベタニス)とビベグロン(商品名:ベオーバ)です。

治療がうまくいかないときは?

過活動膀胱の治療がうまくいかない場合、考えられるのは2つだと思います。
1.そもそも過活動膀胱ではない。
2.難治性の過活動膀胱である。

1の場合も2の場合も泌尿器科専門医が対応します。
是非、お近くの泌尿器科クリニックへ相談してください。

ここからは私見が入ります。
1の「そもそも過活動膀胱ではない」場合で多いのは多飲多尿(水分の飲みすぎ)です。
あとは「過活動膀胱」ではなく、「膀胱の知覚過敏」の状態です。
「膀胱の知覚過敏」の原因として「間質性膀胱炎」があります。(別ページ参照)
また「膀胱癌」も注意すべき疾患です。
他にも「過活動膀胱」のような症状の他の病気がたくさんあるので泌尿器科で詳しく検査を受ける必要があります。
かかりつけ医で3か月治療受けても改善しない場合は、泌尿器科専門医に相談することを強くお勧めします。

2の「難治性の過活動膀胱」に対しては、抗コリン薬の増量やβ3アドレナリン受容体作動薬と抗コリン薬の併用などの対処方法があります。
しかし、これも副作用の対策が必要であり泌尿器科専門医に任せるべきだと考えています。
そして最近では「難治性の過活動膀胱」に対して、仙骨神経刺激療法(SNM:Sacral Neuromodulation)やボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法が使用できるようになりました。

仙骨刺激療法(SNM)は施設基準があり、当院のような泌尿器科クリニックでは実施することができません。
しかしボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法は日帰りでも可能な治療であり、当院でも実施できます。

2020年5月10日 (初版) 文責 南里泌尿器科医院 院長 南里正晴