前立腺がんと診断されたあと主治医の先生から説明を受け治療方針が決まります。
その治療と並行しながら行う「食生活の注意点」があるのか調べてみました。

出典、参考文献は、
Peisch SF  Prostate cancer progression and mortality: a review of diet and lifestyle factors.
World J Urol. 2017 June; 35(6): 867-874.

ズバリ! 結論です。

前立腺がんの患者さんに良い食生活

◎1.適度な運動を継続すること
○2.魚料理の摂取
○3.トマトの摂取
○4.植物性の脂肪
○5.アブラナ科の野菜(ブロッコリー、カリフラワーなど)の摂取
 6.コーヒー
 7.大豆食品

前立腺がんの患者さんに良くない食生活

◎1.肥満
◎2.たばこ
3.乳製品の過剰な摂取
 4.加工肉(ソーセージ、ベーコン、サラミなど)
 5.卵の過剰な摂取
 6.鶏肉の皮
 7.動物性の脂肪

注意)◎は特に関連が強い、〇は関連がありそう、無印は参考程度

それでは、解説です。

1.日常生活の注意点

適度な運動を継続し、適正な体重で維持すること!

1)まず自分の適性体重を知りましょう。
BMI(Body Mass Index; ボディマス指数)が参考になります。
※BMIとは身長と体重から計算できる肥満度を表す指数のことです。
BMI=体重(Kg)÷身長(m)で計算できます。
日本肥満学会の提唱ではBMIが18.5~25未満で普通体重となっています。

2)なぜ肥満が前立腺がんに悪いの?
肥満が前立腺がんの進行や死亡率に影響するという報告が多数あります。
たとえば・・・
・BMIが30以上では普通体重の人より2倍も前立腺がん死のリスクが上がる。
・BMIが5ポイント上昇すると前立腺がんで死亡するリスクや再発のリスクが約20%上昇する。
などです。
肥満が前立腺がんの悪化にどうして影響するかについては仮説ですが、脂肪細胞から作られるいろいろな生理的活性物質が性ホルモンに影響を与える可能性やがんを増殖させる引き金になる可能性が考えられています。

3)だから適切な運動が大切なのです。
適度な運動は前立腺がんの再発リスクを下げると言われています。
適度な運動とは「うっすら汗をかいて心拍数と呼吸数が上昇する程度」でジョギングや水泳、自転車などです。

適度な運動が前立腺がんの進行を抑制させる理由はよくわかっていないようですが、
・1日に3時間以上の適度な運動を継続すると1時間以下の運動しかしていない人に比べて前立腺がんで死亡するリスクが約60%低下した。
・1週間に3時間以上早歩きをしている患者さんは普通の速度で1週間に3時間以下しか歩かない患者さんに比べて前立腺がん再発リスクが57%低下した、という報告があります。

4)たばこと前立腺がんの関係について
前立腺がんの患者さんが禁煙をすることはとても大切です。
たばこは前立腺がんの進行や死亡率を爆発的に上昇させると報告されています。
例えば前立腺がん患者さん5366人の22年間に及ぶ経過観察で喫煙は60%以上の死亡率と再発率上昇に関係していたという報告があります。

2.食事の注意事項

※絶対にいい食べ物や絶対に食べてはいけない食べ物があるわけではありません。

あまり神経質になりすぎずにバランスの良い食生活を心掛けてください。

そのうえで・・・

OK食品には、

1)魚料理は前立腺がんの進行を抑制するかも。

魚をたくさん食べる習慣がある人は前立腺がんの死亡率が低いという報告があります。
とくにサケ、イワシ、サバ、ニシンなどのオメガ3脂肪酸が豊富な魚をたくさん摂取する人には悪い前立腺がんが発症する率が低いと報告されています。

2)リコピンが豊富な食品であるトマトはいいかも。

トマトには抗酸化作用が強く、前立腺がんの抑制効果があるのではないかと言われているリコピンを豊富に含むため前立腺がんの増殖や転移を抑制する可能性を示唆した報告があります。

3)ブロッコリーやカリフラワーなどアブラナ科の野菜はいいかも。

トマトと同様にアブラナ科の野菜の消費量が多いほど前立腺がんを発症するリスクが低いことが報告されています。
アブラナ科の野菜に含まれるグルコシノレートという成分が体内で分解されてインドールやイシチオシアン酸などの抗がん作用を有する物質になるからではないかと考えられています。

その他、
コーヒーは抗酸化作用があるからいいかもしれないという報告、
大豆食品はイソフラボンが前立腺がん細胞の増殖、浸潤、転移を阻害するのではないかという報告などがあります。

逆に食べ過ぎたり飲み過ぎたりしないほうがいい食品としては、

つまりNG食品には、

1)乳製品
→意外ですがいくつかの研究では乳製品やカルシウムの過剰摂取が前立腺がんの発症リスク増加に関連していると報告されています。
2)加工肉(ソーセージ、ベーコン、サラミなど)
→明確なデータは少ないようですが、いくつかの研究が前立腺がんの発症との関連を報告しています。
3)卵(コリン)
→これも明確なデータはないようですが、卵を食べすぎると性質が悪い前立腺がんが発症するリスクや前立腺がんの再燃リスクが2倍増えるという報告があります。卵の成分である「コリン」が前立腺がんの悪化に関連しているのではないかという説があるようです。
4)その他
「鶏肉の皮」をたくさん食べる人は前立腺がんの再発率が2倍になるという報告や動物性の脂肪(飽和脂肪酸)の摂取は進行性、致死的な前立腺がんの発症に関連しているという報告があります。
なので脂肪分の摂取は植物性のオリーブオイルやナッツ類にすることが勧められています。

前立腺がんの患者さんに「よい食生活」に絶対的なものは少ないのですが、前立腺がんの予防や前立腺がんになった後に進行を少しでも抑制させる食生活は重要なテーマだと思います。
手術や放射線治療、薬物療法(ホルモン療法など)と並行しながら実行することが大切です。
これからもあたらしい情報を取り入れながら前立腺がんの患者さんのための食生活について整理していきながらこの記事も改訂していきたいと思っています。

当院では、前立腺がんの患者さんの食生活の注意点をまとめた院長作成のパンフレット「前立腺がんと診断された患者さんへ」を希望する患者さんに配布してます。
診察の際に申し出てください。

記事作成・文責 南里泌尿器科医院院長 南里正晴